30秒サマリー
- フォーミュラ1がAWSと共同開発した「Data Accelerator」で、データソース統合期間を最大8週間から約40分に大幅短縮
- Amazon Bedrock AgentCoreを活用したAIエージェントが、パイプライン生成・GDPR分類・スキーマ監視など作業の95%を自律処理
- 18カ月分の積み残し案件と断片化した可観測性という二重の課題を一括解消し、マーケティングDXを加速
何が起きたか
フォーミュラ1(F1)は全世界8億人超のファンを抱えるグローバルブランドであり、チケット販売・ストリーミング・スポンサー・マーチャンダイズなど多岐にわたるタッチポイントのデータを統合するCustomer 360プラットフォームを運営している。しかし従来は新しいデータソースを1件追加するだけで手作業のエンジニアリングが6〜8週間必要で、12件の新規ソース統合だけで18カ月分の積み残しが生じていた。IT部門ディレクターのChris Roberts氏はこの状態を「マーテックプラットフォームはF1のファンエンゲージメントの神経系だが、毎回手作業でつなぎ直さなければならなかった」と説明している。
2026年初頭、F1とAWSは共同で「Data Accelerator」を構築した。Amazon Bedrock AgentCoreのランタイムコンテナ上でAIエージェントを稼働させ、業務要件定義書(BRD)をアップロードするだけでインフラコード・データ変換ロジック・GDPRタグ付けを含む本番運用可能なパイプラインを自動生成する仕組みだ。処理は2フェーズで構成され、フェーズ1で設定ファイルとGitHubプルリクエストを生成、フェーズ2でAWS Glue・DBT・ガバナンスポリシーの3種のPRをまとめて生成する。AIエージェントが作業の95%を自律実行し、統合所要時間はコード生成40分+デプロイ・レビューの数時間まで短縮された。
Data AcceleratorはデータソースのオンボーディングだけでなくPRD、スキーマ変動の自動検知・修正、Amazon SageMaker Unified Studioを基盤にした統合データアクセス環境の整備、データリネージュを可視化するエンドツーエンドの可観測性ダッシュボードの導入も同時に実現している。従来はレースウィークエンド中にパイプライン障害が発覚し、原因特定に数時間を要していたが、現在は障害発生から解決まで数時間以内に収まるという。データエンジニア・データサイエンティスト・アナリストが同一環境でデータを参照・活用できる「ワンフロントドア」体制も整備された。
原典ハイライト
F1のHead of Data OperationsであるMatt Kemp氏は「手作業によるデータソース取り込みは時間を浪費し、実装のばらつきを生み、最終的にデータの整合性問題を招く。繰り返し可能で堅牢かつ信頼性の高いソリューションが必要だった」と述べており、AWSがF1のニーズから逆算してエンドツーエンドのエージェンティックソリューションを設計したことを明かしている。またRoberts氏は「アラートだらけのダッシュボードではなく、データリネージュと根本原因分析を備えたマーテックプラットフォーム全体のエンドツーエンドの可視性を初めて手に入れた」とコメントしている。
出典: AWS Machine Learning Blog(公式ブログ)
So What?(なぜ重要か)
データ統合の「手作業ボトルネック」はF1のような先進企業でも18カ月の積み残しを生む深刻な経営課題だった。エージェンティックAIがコード生成・GDPR分類・スキーマ変動対応・ガバナンス登録を自律処理することで、エンジニアの希少なリソースを定型作業から解放し、ビジネス判断のスピードをデータ供給速度に合わせることが現実的になった。単なる効率化にとどまらず、データエンジニア・サイエンティスト・アナリストが同一環境で協業できる組織構造の変革をも促している点が重要だ。
日本企業への示唆
日本企業でも、CRMや基幹系データの統合を外部ベンダーへの都度依頼や社内エンジニアの手作業に頼っている場合は同種の積み残し問題が潜在している可能性が高い。今回の事例はAmazon Bedrock AgentCoreを起点にGitHub・Jira・DBT・AWS Glueを連携させた具体的なアーキテクチャを公開しており、自社のデータ統合ワークフローへの応用を検討する際の実装参考になる。特に①GDPR/個人情報保護法対応の自動分類、②スキーマ変動の自動検知・修正、③SageMaker Unified Studioによる全職種横断のデータアクセス基盤という三点は、データ活用の内製化を進める企業が直面する課題に直接対応している。マーテックや顧客データ統合を担うIT部門・CDO組織は、エージェンティックAIをデータOpsの標準ツールとして評価検討する段階に来ているといえる。
背景・経緯
F1はレースが2週間に1度開催され、ファンエンゲージメントの機会が数分単位で生じる高速ビジネスを展開している。Customer 360プラットフォームはチケット販売・ストリーミング・SNS・スポンサーフィード・マーチャンダイズなど複数のデータソースを統合してパーソナライゼーションや商業戦略に活用しているが、ソース数の増加に統合作業が追いつかない状態が慢性化していた。AWSはF1の公式テクノロジーパートナーを長年務めており、今回のData Acceleratorは2026年初頭に両社が共同で構築した。






