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ソフトバンク、3万人へ生成AI展開——IT部門が直面した同時多発課題の実態

30秒サマリー

  • ソフトバンクが全社員に「1人100エージェント作成」を号令、2カ月半で250万超のAIエージェントが生成された
  • 展開当日のプロビジョニング停止、仕様ギャップ、機能の自動追加など複数の課題が同時に発生しIT部門が対処
  • 解決の鍵は「先回り情報整理」「テナント制御」「部門横断の説明体制」など従来のSaaS運用で培った基礎力

何が起きたか

ソフトバンクは、宮川潤一社長CEO自らが朝礼で「10分でAIエージェントが作れる」とデモを行い、全社員に1人100本のAIエージェント作成を指示した。号令から約2カ月半で250万超のAIエージェントが作成されるムーブメントに発展したと原文は伝えている。

全社展開当日、数万人規模のアカウントプロビジョニング処理で一部が想定通りに進まない障害が発生した。IT部門は認証連携・SCIM設定・ネットワーク・権限設計など自社側で確認できる論点を先に洗い出し、再現条件や影響範囲ログを時系列で整理してサービス提供事業者と共有する「先回り情報整理」で往復確認を最小化。夜間対応の末、全社員へのプロビジョニングを完了させたと記されている。

運用開始後も課題は続いた。機能追加のスピードが速く「いったん止める→検証→確認できたものからリリース」サイクルを継続的に回す必要があった。また、アカウントが消えた際にユーザーが作り込んだエージェントやプロジェクトが復元されないという仕様上のギャップも発覚。IT部門が発生条件と影響範囲を整理してサービス提供事業者に継続的に働きかけた結果、現在はアカウント復活時に内容も復元される仕様に改善されたと原文は述べている。

セキュリティ面では、URLベースの制限だけでは会社契約アカウントと部署契約アカウントを判別できないという問題が生じた。以前から導入していたクラウドプロキシの「SaaSテナント制御機能」を活用することで比較的早期に対応できたとしている。また、機能制限への現場の反発に対しては、各部門にAI推進担当者を設け、IT部門と利用部門の「翻訳者」として機能させることで摩擦を低減する体制をとった。

原典ハイライト

原文の核心は「課題は順番に来るのではなく、全て同時に起こる」という言葉に集約される。マニュアルなしの立ち上げ・展開当日の障害・仕様ギャップ・機能の自動追加・現場との摩擦・テナント制御という複数の課題が並行して発生した。それを乗り越えた手段として原文が挙げるのは「事象の切り分け・影響範囲の見極め・先回り情報整理・継続的な説明」という、いずれもSaaS管理で培った基礎的なIT運用力である。

出典: ITmedia AI+(報道)

So What?(なぜ重要か)

生成AIの大規模展開は、従来のSaaS導入と根本的に異なる。ベストプラクティスが未整備、機能追加が自動・高頻度、サービス仕様が利用者の行動によって変わり得るという三重の不確実性がある。今回の事例は、その不確実性を「整った状態を入れる」という従来の発想では乗り越えられず、「未整備なものを運用で成立させる」能力がIT部門に求められることを示している。ソフトバンクが示した先回り情報整理・テナント制御・部門横断の翻訳体制は、同様の課題に直面する企業にとって実践的な参照モデルとなる。

日本企業への示唆

日本企業が生成AIを数千〜数万人規模で展開する際、まず「導入マニュアルが存在しない前提」で準備計画を立て直すことが現実的な第一歩となる。具体的には、①検証サイクルを短く回す体制の事前構築、②サービス提供事業者への問い合わせを一回で済ませる「先回り情報整理」の型作り、③IT・セキュリティ・法務・推進部門が合同でガバナンスを決定できるワンストップ体制の設計、④クラウドプロキシ等の既存セキュリティ基盤を使ったテナント制御の実装確認、⑤現場摩擦を吸収する部門別AI推進担当の配置、という五点を並行して整備することが求められる。特に「AI推進担当者を翻訳者として活用する」モデルは、大企業ほど部門間のコミュニケーションコストが高い日本企業に親和性が高いと編集部はみる。

背景・経緯

原文によれば、ソフトバンクは生成AIの導入から本稿執筆時点で約2年が経過しており、その間に蓄積したルールと知見がガバナンス整備の基盤となっている。本連載は全3回構成で、第1回が本稿。次回はクラウドプロキシを使ったテナント制御の詳細を紹介予定とされている。執筆者はソフトバンクのコーポレートIT部門に約20年在籍し、社内ITサポートや業務ツール全社展開を担当してきた人物。