公開:2026年9月9日, 最終更新:2026年9月13日
関連記事:OpenAI、ナビエ・ストークス方程式の「ミレニアム懸賞問題」をAIで解決と発表
30秒サマリー
- OpenAIが内部AIモデルを用い、約90年未解決のナビエ・ストークス問題の解を発見したと発表
- 発表1日前に同問題に取り組んでいたNYU数学教授が、自らのCodexデータが無断利用された可能性を指摘
- OpenAIは「特定ユーザーデータへのアクセスなし」と否定するも、訓練データへの使用は完全に否定せず
何が起きたか
OpenAIは現地時間9月上旬のブログ投稿で、流体・気体の流れを記述する「ナビエ・ストークス方程式」に関する問題の解を発見したと発表した。同問題は数学界の難題を集めた「ミレニアム懸賞問題」7問のうちの一つで、各問題には100万ドルの賞金が設けられている。OpenAIによれば、8月28日から訓練を開始した内部AIモデル(新たにリリースされたGPT-6 Astraを上回る性能とされる)と1万の同時稼働エージェントを組み合わせて解を導いたとしている。
OpenAIの発表前日、ニューヨーク大学のトリスタン・バックマスター教授がAnthropicの研究者レヴェント・アルポゲ氏と共同で関連する問題の研究成果を公表。バックマスター教授は、自身らがOpenAIのCodexとAnthropicのClaudeを用いて研究を進め、そのすべての草稿をCodexのセッションに蓄積していたと説明した。教授はOpenAIに対し「モデルが自分たちのCodexセッションデータを訓練に使用したか、またはアクセスしたか」を問い合わせたが、「モデルはユーザーデータを参照しない」という回答を得たのみで、訓練への使用については明確な回答を得られなかったと主張する。
OpenAIは声明の中で「この問題を解くために特定のユーザーデータにアクセスした事実はない」と否定した。一方で「可能性は低いが、ユーザーの製品使用から得られた匿名化データがモデルの改善に寄与していた可能性は否定できない」とも認めている。OpenAIの技術スタッフ、セバスチャン・ビュベック氏も「バックマスター氏らの研究を昨夜の公開まで一切見ていなかった」「両者の証明は大きく異なる」と述べた。これに対しバックマスター教授はMastodon上で、OpenAIは「自分たちが結果を出した後の期間の訓練データを使ったと公然と認めている」と反論している。なおOpenAIは100万ドルの賞金を受け取らない意向を示している。
原典ハイライト
OpenAIは「特定ユーザーデータへのアクセスはなかった」と否定しつつ、「匿名化データがモデル改善に寄与した可能性は排除できない」と付言。訓練データ使用に関する問い合わせへの直接回答を避けた点が論争の核心となっている。
出典: The Verge(報道)
So What?(なぜ重要か)
今回の騒動は、AIプラットフォームが利用者のインタラクションデータをモデル訓練に活用する慣行が、学術・研究領域において深刻な知的財産リスクになり得ることを示している。OpenAI自身が「完全には否定できない」と認めた点は、プラットフォーマーのデータガバナンスへの信頼を揺るがす。また、AIが世紀の難問を解決する一方で、その過程の透明性確保がいかに困難かを露わにした事例でもある。
日本企業への示唆
日本の研究機関・企業がAIツール上で未発表の研究データや競争優位につながる知見を扱う際、プラットフォーム側の訓練データポリシーを精査することが急務となる。契約上「データを訓練に使用しない」旨の確約を取得しているか、機密性の高い草稿・ドラフトを外部サービス上に入力するリスク管理ポリシーを整備しているかを改めて点検すべきだ。また、AI活用で得た科学的成果に関する知財帰属のルール整備も、今後の経営課題として浮上する。
背景・経緯
ナビエ・ストークス方程式は流体力学の基礎方程式で、その解の存在と滑らかさを証明することが約90年来の難題とされてきた。ミレニアム懸賞問題はクレイ数学研究所が2000年に設定したもので、これまでに解決されたのはポアンカレ予想のみ(2003年)。今回の発表はNYタイムズ・Wiredが先行報道し、OpenAIがブログで正式に確認した。




