公開:2026年9月24日, 最終更新:2026年9月24日
30秒サマリー
- 100年の歴史を持つオランダ小売HEMAが、MCP×Amazon Bedrock AgentCoreで社内AI「HAL」を構築
- 複数ポータルを渡り歩く非効率を解消し、IDE内から即座に社内知識へアクセスできる環境を実現
- カスタムMCPサーバーコード不要・Entra ID認証でAWS認証情報をクライアントに渡さない設計が特徴
何が起きたか
AWSの機械学習公式ブログに2026年9月、オランダの小売企業HEMAのエンジニア・Mauro Rallo氏とPatrick van der Plas氏との共同投稿記事が公開された。同社が社内AI「HAL(HEMA AI Assistant)」を構築した経緯と技術的実装を詳述したもの。
HEMAは750店舗以上を展開する創業100年の小売企業で、技術組織にはエンジニア・プロダクトオーナー・ビジネスアナリストが在籍する。以前は社内ナレッジがWikiやサービスカタログ、ITポータルなどに分散しており、一つの回答を得るために複数のポータルを渡り歩く「portal-hopping」が常態化していた。特に手順・ルール類の手続き的知識はドキュメント化が不十分で、組織拡大に伴い口頭での情報伝達モデルが機能しなくなっていたという。
HALはModel Context Protocol(MCP)とAmazon Bedrock AgentCoreを組み合わせて構築された。開発は二段階で進められ、まず独自チャットUIを持つスタンドアロンアシスタントを構築。次に外部MCPクライアント(KiroやClaude等)からも同じ知識ベースにアクセスできるよう拡張した。AgentCore Gatewayを活用することで、OpenAPI仕様とAWS Lambda関数からMCPツールを直接生成でき、カスタムMCPサーバーコードの記述・運用が不要になった。
認証面では、内部エージェント向けにはIAM SigV4を、外部MCPクライアント向けにはMicrosoft Entra IDによるJWT認証を採用した。Dynamic Client Registration(DCR)はスタブ実装で対応し、エンドユーザーはAWS認証情報なしにプロキシURLの設定のみで利用可能な設計となっている。記事によれば現在は読み取り専用の知識レイヤーだが、今後はアクションレイヤーへの拡張を計画しているとしている。
原典ハイライト
「問題は知識が存在しないことではなかった。知識へのアクセスが困難なことだった」とHEMAのエンジニアは記事内で述べており、構造化データ(サービスカタログ等)は整備されていたものの、手続き・ルール類は文書化が不十分で複数ポータルに分散していたと説明。AgentCore GatewayがOpenAPI仕様からMCPツールを直接生成する仕組みにより、カスタムサーバーコード不要での実装を実現した点を核心的な技術的選択として紹介している。
出典: AWS Machine Learning Blog(公式ブログ)
So What?(なぜ重要か)
MCPという標準化されたインターフェースを介することで、一度構築した知識バックエンドをIDEやAIアシスタントなど複数のクライアントから再利用できる。これは「新しいポータルを作る」のではなく「既存ツールの中に知識を届ける」というアプローチの転換を意味する。AgentCore Gatewayにより既存のOpenAPI仕様やLambda関数を転用できるため、ゼロからのMCPサーバー実装コストを大幅に圧縮できる。また認証をEntra IDに集約し、AWSクレデンシャルをクライアントに渡さない設計は、社内情報をAIに接続する際のセキュリティ上の懸念を軽減するモデルとして参考になる。
日本企業への示唆
日本企業でも、社内ナレッジのサイロ化は共通課題である。本事例が示すのは「専用ポータルをさらに増やす」のではなく、MCPを知識流通の標準レイヤーとして整備し、エンジニアが普段使うIDEやAIクライアントから透過的にアクセスさせるアーキテクチャの有効性だ。IT部門は既存のOpenAPI仕様やドキュメントを棚卸しし、AgentCore Gatewayのような仕組みでMCP化することで比較的低コストから着手できる。認証基盤としてEntra ID(Azure AD)をすでに利用している企業であれば、本事例の認証設計をほぼそのまま参考にできる。現在は読み取り専用だが、将来のアクションレイヤー拡張も視野に入れてアーキテクチャを設計しておくことが望ましい。
背景・経緯
Amazon Bedrock AgentCoreはエージェント構築・接続・最適化のためのプラットフォームとしてAWSが提供するサービス。Model Context Protocol(MCP)はAIクライアントとバックエンド機能の間の標準化されたインターフェース仕様。HEMAはオランダを拠点に複数国で750店舗以上を展開する小売企業で、デジタルトランスフォーメーションを推進するエンジニア組織を持つ。本記事はHEMA側エンジニアとAWSの共同執筆としてAWS公式ブログに掲載された実践事例報告。




