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MS研究所がAIエージェント基盤「Orchard」をオープンソース公開、小規模モデルで最先端に迫る性能を実証

30秒サマリー

  • マイクロソフト研究所がスケーラブルなAIエージェント開発基盤「Orchard」をオープンソースとして公開した
  • 有効パラメータ約30億の小規模モデルでSWE-bench Verified 69.7%(再ランク付けで73.0%)を達成、10倍超の大規模モデルに迫る
  • ソフトウェア開発・Web操作・個人アシスタントの3領域に対応し、訓練データ・評価手法も一括公開

何が起きたか

マイクロソフト研究所は、AIエージェントの訓練・評価・展開を一貫してサポートするオープンソースフレームワーク「Orchard」を発表した。中核となる「Orchard Env」はKubernetesベースの軽量環境サービスで、数千の独立した実行コンテナを並列管理できる。ソフトウェアエンジニアリング・Webブラウジング・個人アシスタントといった異なるタスク領域を、インフラを作り直すことなく同一基盤で扱える点が特徴だ。

同フレームワーク上で開発された「Orchard-SWE」は、35B-A3Bと表記される小規模モデル(有効パラメータ約30億)でありながら、実世界のコードベース修正能力を測るSWE-bench Verifiedで69.7%を記録し、バリューモデルによる再ランク付けを加えると73.0%に達した。MiniMax-M2.5とQwen3.5-397Bから蒸留した10万7千件のエージェント対話データを訓練に活用し、Balanced Adaptive Rolloutによる強化学習や密な報酬手法(オンポリシー蒸留・プロセス報酬モデル)を組み合わせている。ベースラインの61.4%から段階的に性能を引き上げた結果だ。なお、バリューモデル自体は40億パラメータのコンパクトな構成と説明している。

Webナビゲーションに特化した「Orchard-GUI」は40億パラメータの視覚言語モデルを使い、400件のデモンストレーションデータと2,200件のタスクで訓練。WebVoyagerで74.1%、Online-Mind2Webで67.0%、DeepShopで64.0%、平均68.4%を達成し、オープンソースのGUIエージェントとして最高水準としつつOpenAIやGoogleの独自システムとも同等の競争力を持つと原文は説明している。個人アシスタント向けの「Orchard-Claw」は200件の合成タスクで訓練され、実際の展開ハーネス内で直接訓練できる設計により、Codexハーネス下での成功率が未訓練時の18.6%から51.5%へ向上した。環境サービス・訓練パイプライン・訓練データセットはすべて公開されている。

原典ハイライト

原文は「今日の最高性能エージェントはClaude Code・Codex・OpenClawといった洗練されたハーネスを通じて動作するが、オープンな訓練ツールはこうした複雑なハーネスを扱えないため、研究者は簡略化した代替環境で訓練せざるを得ず、実際の展開環境との乖離が生じていた」と課題を明記。Orchardは軽量プロキシがハーネス自身のモデル呼び出しを訓練データとして記録しながら、各ロールアウトを独立コンテナで実行することでこのギャップを解消すると説明する。また「訓練経験の再利用を累積的エージェント学習の有望な方向性と見ている」とし、過去の訓練軌跡をバリューモデルとして継承・蓄積する展望も示している。

出典: Microsoft Research Blog(公式ブログ)

So What?(なぜ重要か)

(編集部分析)これまでAIエージェントの高性能化には大規模モデルや独自のクローズドインフラが不可欠とされてきた。Orchardは小規模モデルでも適切な訓練基盤と手法があれば巨大プロプライエタリモデルに肉薄できることを示した。インフラ・データ・評価手法をフルスタックで公開することで、参入障壁の高かったエージェントAI研究・開発の民主化が加速するとみられる。特に「ハーネス内での直接訓練」という設計は、研究段階と本番環境の乖離という業界共通の課題に正面から答えるものだ。

日本企業への示唆

(編集部分析)日本企業にとって最大の示唆は「自社業務特化のAIエージェントを、大規模投資なしに開発できる現実的な道筋が生まれた」点だ。Orchardの訓練基盤・データ・評価手法はすべて公開されており、社内エンジニアリングチームが自社の業務データをOrchard上で活用すれば、コーディング支援・社内Webシステム操作・メール/カレンダー管理といったエージェントを比較的小規模な計算コストで構築できる可能性がある。Codex・OpenClawなど既存ハーネスにそのまま組み込んで訓練できる設計は、これらのツールをすでに活用している企業にとって移行コストを抑えるうえで有利に働く。AIエージェント開発の内製化やスタートアップとの協業を検討している企業は、Orchardを評価・検証フェーズの起点として位置づける価値があるだろう。

背景・経緯

アジェンティックAI(自律的に計画・行動するAI)は、単純な質問応答を超えてコードベース修正・Web操作・複数ツールにまたがるワークフロー処理を担う段階へ移行しつつある。一方、高性能エージェントの開発は独自サンドボックスや非公開訓練パイプライン、独自データセットに依存してきたため、大手テック企業以外の研究者や企業が追随することは困難だった。原文はこの構造的な格差を「研究コミュニティが直面している持続的なボトルネック」と明示しており、Orchardはその解消を明示的な目的として設計されている。