公開:2026年9月13日, 最終更新:2026年9月13日
30秒サマリー
- 元EPA高官らが、AIデータセンター建設を優先したトランプ政権の規制緩和が健康リスクを高めると警告
- 2025年1月以降の30件の連邦政府の政策変更がデータセンター由来の汚染リスクを悪化させるとの報告書を公表
- 大学研究では2028年までに最大1,300人の早期死亡と200億ドル超の公衆衛生コストが生じる可能性
何が起きたか
元EPA(米国環境保護庁)職員らで構成される独立組織「Environmental Protection Network(EPN)」は、トランプ政権によるAIデータセンター建設促進を名目とした環境規制の緩和が、米国民の健康リスクを高めているとする報告書を公表した。報告書は2025年1月以降の30件の連邦政府の政策変更を特定しており、そのうち17件はAIまたはデータセンターを明示的に対象としている。
トランプ大統領のEPA長官リー・ゼルディン氏は就任当初から規制緩和を通じて米国を「世界のAI首都」にすると宣言しており、その後、数十の規制を撤廃したほかEPAのスタッフや予算も削減してきた。トランプ政権は2025年7月に「AI行動計画」を発表し、データセンターや半導体工場の許認可を迅速化するため、クリーンエアー法・クリーンウォーター法・スーパーファンド法の下での規制の合理化・縮小を推奨している。
EPNの報告書が引用するカリフォルニア大学リバーサイド校・カルテック・ロチェスター工科大学の共同研究によれば、AIに関連する大気汚染は2028年までに最大1,300人の早期死亡と200億ドル超の公衆衛生コストをもたらす可能性があるとされる。EPNは、今回報告書で示した政策変更も加味すれば被害はさらに大きくなると主張している。
EPAのスポークスパーソンはThe Vergeへのメール回答で、各措置は「過去政権の越権行為を是正し、クリーンエアー法の正しい解釈に戻るもの」と説明しつつ、「人の健康と環境の保護」と「米国をAIの世界首都にすること」の両立を優先するとの立場を示した。
原典ハイライト
元EPA高官のリン・ゴールドマン氏は「これほど大規模な産業整備にもかかわらず、EPAの監視は強化されるどころか逆方向に動いている。有害化学物質や有害汚染物質の規制を弱め、業界のニーズを最優先にしている」と批判した。また同氏は「データセンターの近くに住んでいなくても、汚染の影響を受ける可能性がある」と述べており、汚染がデータセンター以外の電力・製造インフラからも広範囲に拡散することを指摘している。
出典: The Verge(報道)
So What?(なぜ重要か)
AIインフラの急拡大が環境・公衆衛生コストという「外部不経済」を生み出している構図が、元規制当局者の報告書という形で公式に可視化されたことは重要だ。政権の規制緩和姿勢が続く限り、AIデータセンターを巡る環境負荷コストは社会・地域住民が負担する構造が固定化しかねない。将来的な政権交代や訴訟リスクを見越して、規制の揺り戻しを想定したリスク管理が業界全体の課題となりつつある。
日本企業への示唆
日本でも生成AI投資に伴うデータセンター建設ラッシュが進むなか、米国の「規制緩和先行・環境コスト後払い」モデルをそのまま採用することへのリスクを直視すべきだ。脱炭素規制や立地審査が今後厳格化される可能性を見据え、データセンターの電源構成(再生可能エネルギー比率)や立地選定段階での環境影響評価を投資判断の要件として組み込むことが、中長期的なレピュテーションリスクと規制リスクの両面で有効な備えとなる。また、サプライチェーン上でAIインフラを活用するユーザー企業においても、調達先のデータセンターの環境基準をESGデューデリジェンスの対象とする動きが加速するとみられる。
背景・経緯
トランプ政権は第2期就任以降、AI産業の振興を国家戦略の柱に据えており、EPA長官ゼルディン氏は規制緩和を通じた「世界のAI首都」実現を表明してきた。一方、EPAの現役職員数百人が2024年(原文では「昨年」)にゼルディン長官宛の公開書簡で、環境・健康保護の後退に懸念を表明していたという経緯がある。EPNは元EPA職員らによる独立組織であり、今回の報告書はその立場からの提言として位置づけられる。







