公開:2026年10月17日, 最終更新:2026年10月17日
マルチホップRAG(Multi-hop RAG)とは、複数の文書やメタデータに分散した情報を段階的に検索・統合することで、一度の検索では回答できない複雑な質問に対応するRAG(検索拡張生成)の技術・手法である。単純なベクトル類似度検索による単一パスの検索(Naive RAG)では処理が困難な、情報間の論理的な接続や多段階の推論を必要とする問いに応えるための先進的なアーキテクチャとして位置づけられる。
概要
マルチホップRAGは、「アインシュタインの出身大学の設立年は?」のように、複数の事実を論理的につなぎ合わせなければ回答できない質問(マルチホップ・クエリ)を処理するための手法である。従来の単一パス検索では、1回の検索で関連チャンクを取得してそのまま回答生成に渡すため、複数文書にまたがる事実の連鎖を扱うことが難しい。マルチホップRAGはこの制約を克服するために、クエリの分解・複数ステップの検索・中間結果の統合というプロセスを組み合わせる。
評価基準の整備という観点では、2024年1月に香港科技大学のYixuan TangとYi Yangが発表した論文『MultiHop-RAG: Benchmarking Retrieval-Augmented Generation for Multi-Hop Queries』(arXiv:2401.15391、COLM 2024採録)が、複数文書とメタデータにまたがる根拠の検索・推論能力を評価するための2,556件のクエリからなるベンチマークデータセットを構築・公開しており、この分野の研究基盤として機能している。
仕組み・ポイント
クエリ分解(Query Decomposition)
複雑な質問を複数の段階的なサブクエリに分解することから始まる。先の例であれば、①「アインシュタインの出身大学はどこか」②「その大学はいつ設立されたか」という順序立てた問いに変換し、それぞれを個別の検索ステップとして処理する。
反復・段階的検索(Iterative / Sequential Retrieval)
1つ目のホップ(検索ステップ)で得られた中間結果を次の検索クエリの入力に反映し、情報を段階的にたぐり寄せる。この「前のステップの結果が次の検索を導く」という連鎖が、複数文書にまたがる事実を橋渡しする核心的なメカニズムである。
複数文書間の情報統合(Evidence Aggregation)
単一テキストチャンク内に収まらない複数文書にわたる事実(エビデンス)を統合し、論理的に一貫した回答を構築する。
関連する技術アプローチ
- Agentic RAG / AI Agents: AIエージェントが自律的に検索の継続判断やクエリの再構築を行う
- GraphRAG / HopRAG: ナレッジグラフ(知識グラフ)を活用してデータ間の論理的な繋がりをたどる多段階検索手法
- IRCoT(Interleaving Retrieval with Chain-of-Thought): 推論(思考の連鎖)と検索を交互に繰り返す手法
なぜ今注目されているのか
多段階検索の有効性が認識される一方で、実用上のコストと速度がボトルネックとして浮上していることが、現在の研究動向の背景にある。ステップを重ねるほどLLMへのAPI呼び出し回数が増加し、コストとレイテンシが増大するという課題に対し、南京大学とMicrosoftの研究者らが発表しEMNLP 2024に採録された『EfficientRAG』では、毎回のLLM呼び出しなしに新たな検索クエリを生成し、無関係な情報をフィルタリングする高効率な検索プロセスが提案されている。
実装面でも、LlamaIndexやLangChainといった主要RAG開発エコシステムにおいてマルチホップ検索やクエリ分解機能が標準コンポーネントとして組み込まれるようになっており、研究段階から実用段階への移行が進んでいる。また、マルチホップRAGにおける誤答の原因を「検索の迷走」として分離・定量化する研究も登場しており、精度向上に向けた分析も深まっている。
日本企業への示唆
社内規則・契約書・製品仕様・過去事例など、複数の文書にまたがる情報を組み合わせて初めて答えが得られる業務上の問いは多く、マルチホップRAGはこうした用途において単純なRAG構築では得られない回答精度をもたらす可能性がある。一方で、検索ステップが増えるほどLLMの呼び出し回数とレイテンシが増大するため、EfficientRAGのような効率化手法の選択やアーキテクチャ設計の工夫が導入コストの観点から重要になる。LlamaIndexやLangChainなど主要フレームワークへの組み込みが進んでいることは、内製・外製いずれの開発においても実装ハードルを下げる要因となる。評価基準の整備(MultiHop-RAGベンチマーク等)も進みつつあるため、導入検討時には精度評価の指標設計にも目を向けることが望ましい。
※ 本ページはAI News JAPAN編集部が最新の動向を踏まえて解説したものです。内容は随時見直します。


